ぼくの優しいサンタさん

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「今年はなんて書こうかなぁ~」 ボールペンを持ちながら、井上忠は大きな独り言を呟いた。 「もう25歳になるんだから、そろそろやめたらどうだい?」 叔父の井上祐輔は、目尻に皺を寄せて苦笑しつつ溜息まじりに告げた。会社帰りの忠のために用意したシチューを、お皿に取り分ける。 「え~!いーじゃん!何歳になっても、俺はサンタさんを信じる清い子どもなんだから」 「んー、その言い方がもう、清い子どもじゃないよね」 「え~~」 祐輔の言葉に、忠は唇を突き出した。最近、切りすぎたと言っていた天然パーマの髪は、幼い頃の忠と同じ髪型で、まるで小さい頃のまんまのような姿に、プッと祐輔は小さく吹き出した。 忠の前には、『Merry Christmas』と書かれたクリスマス用のカードが置いてあった。赤と緑で彩られ、サンタクロースとトナカイが飛び出す、いかにもなカードだ。 小さい頃から変わらない、サンタさんへ出す手紙だった。 「夕飯出来るから、テーブル片してよ?」 「は~い」 生返事をして、忠はサラサラとカードに『欲しいもの』を書いた。封筒の中にしまっていると、湯気の立つ真っ白いシチューが目の前に置かれる。 「うわ、うまそう。俺、祐輔のシチューめっちゃ好き!」 「あーあ、こうやって僕は、いつも忠の良いなりになっちゃうんだよな」 忠の無邪気な笑顔に、祐輔は軽口を言いつつも満更でもない顔をした。忠の向かい側に自分用のシチューを、二人の中心にサラダを置いた。忠が買ってきたチキンとワンホールのショートケーキに、祐輔の好きなスパークリングワインをテーブルに置いて、ようやく祐輔も席に着いた。
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