デ―ト

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デ―ト

 マリアはパトロン高田の援助で、オ―ダ―メイドのブティックを経営している。  土曜の今夜は、香島とのデ―ト。二人のスタッフには早く退勤してもらった。  マリアはブティックのシャッタ―を下ろす時、空を見上げた。  また今夜も大雪になるらしい。  香島さんは今夜は、どんなお店に連れて行ってくれるのかしら?    マリアは派手にならないように、プレーンなツィードのワンピ―スドレス。首に同系色のスカーフを巻いて、アクセサリ―も大粒のルビ―の指輪と、ピアスだけ。  地下街のコ―ヒ―ショップで、香島と待ち合わせした。  彼は、時間丁度に現れた。  今日はセミカジュアルなチャコ―ルグレーのコ―トにシックな同系色のマフラ―を無造作に巻いている。  フラノの上質なグレーのスラックスに、黒のアウトドアブ―ツ。  香島さん、ファッションセンス最高  流石、画家だけあるわ 「何か食べたい物、ある?」 と香島はマリアに聞いた。 「何でもいいわ」 「マリアさんの、『何でもいいわ』は、怖いんだな」 「私、本当に何でもいいのよ」 「いやいや、折角ですから、フレンチかイタリアンでも行きますか?」 「私、和食が好きなの。新鮮なお魚料理が食べられて、お酒の美味しい料亭でも構わないわ。寒いお店は嫌」  オーケ―  どんなオ―ダ―も大丈夫  どんどん、ワガママ言ってくれ  香島は、いくつかのマリア好みの料亭を調べておいた。  マリアは、余程贅沢な生活を送っている様子。  香島は彼女と話しているうちに、そう感じた。  マリアのお酒のピッチも、とにかく早い。すぐに酔ってしまう。 「香島さん、恋人は居ないの?」 「ええ、居ませんよ」 「うそぉ、どうして?」 「いやぁ、どうしてかな」 「独身貴族なの?」 「まさか」 「バツイチ?」  マリアは酔った勢いで、聞きづらい事を質問する。  香島は、自分がカトリック神父である事を伝えていない。  もし、伝えたら、マリアとはこれ以上親しくは出来ないかもしれない。  俺は卑怯か?  だが、香島の中で、ひとつの大きな決断が待っている事を、彼は予知していた。  亡き母をも裏切るかもしれない、大きな決断。  だからまだ、マリアには神父である事を伝える必要はない。
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