29人が本棚に入れています
本棚に追加
年明けの地下街をポ―ルタウン方面に歩き、英会話教室の入っているビル近くの出口から、地上に出た。
香島は腕時計を見た。
遅刻だ。
急いで英会話教室のビルに入り、エレベ―タ―に滑り込む。
心臓がドキドキしているのは走ったせいさ。
香島は自分にそう言い聞かせた。
上級クラスのドアを開ける。
「Sorry for late」
男性外人講師はニッコリ頷く。
いつも香島は、青山マリアの斜め後ろ辺りに席をとる。
彼女の美しい横顔にうっとりし過ぎて、講師の質問に答えられない事もある。
それでも、講師が変な日本語でジョ―クを言い、マリアが大笑いして、香島に笑いかける事はよくある。
又は、テキストを読んでいる香島を振り返り、微笑む。
なぜ、俺に笑いかけてくれたの?
その度に香島は翻弄され、過度の期待をしてしまう。
同じクラスになり、9ヵ月が過ぎたのに、友人にもなれていない。
桜子との禁断の秘め事は、恋ではなかった。
でも香島は、青山マリアに恋をしている。
今夜のマリアは、ラメ入りの紺色のミニのシャネルス―ツを着ていた。柔らかな茶色の髪をアップにまとめて、黒いオニキスのイヤリングが揺れている。
彼女の長い爪は、宝石のようにデコレ―ションされていて、彼女が少し動く度に香水が香る。
最初のコメントを投稿しよう!