1人が本棚に入れています
本棚に追加
勇気は美咲と同じで幼馴染である。だが彼は高校進学と同時に転校してしまった。メールアドレスは、彼が携帯を持っていなかったため分からず、住所は知っているが手紙のやり取りは一度もしないで今に至る。
彼は優しくて紳士っぽかったけど、いたずらが好きで時に私に意地悪をしてきて……。
正直今まで彼を忘れたことは一度もなかった。何かあれば知らず識らずのうちに「勇貴……」とつぶやいていた。
何度も手紙を書こうと思った。でも書けなかった。書いたところで、「誰だっけ、こいつ」と思われて捨てられるのが怖かったからだ。
「勇貴がね、これをみっちゃんに渡してって、中学卒業に時に渡された」
……え? なんで今渡すの?
美咲はそんな私の気持ちを察したのか、ばつが悪そうに笑った。
「いやあ、私掃除をしないもんですっかり奥に行ってしまって……。でもこの間たまたま地震が起きて荷物が動いてこれが出てきたってわけです! ……その写真の裏を見て」
美咲の適当さに半ば呆れながらも写真を裏返す。そこには勇貴の特徴的な文字が広がっていた。
「勇貴……」
ーー光歩。俺がお前に当てて手紙を書くのはこれが最初で最後だろうな。
お前には言わなかったっけど大阪に引っ越した後また引っ越すみたいなんだ。お前はいらない心配をする奴だから俺に手紙を書くことはしないと思う。だから俺からの手紙は最初で最後。
急にびっくりすると思うけど、俺はお前に言おうと思っていたことがある。最後にお前に言おうと思っていたがやっぱり言えなかった。お前の癖がうつったのかもな。だから俺はこの写真に託した。
俺はお前が好きだ。
勇貴
「勇貴……」
急に目の前がぼやけたと思ったらそれは塊となって私の膝の上に落ちた。勇貴、勇貴、勇貴……!
私は美咲が部屋からいなくなっていることに気付かず、泣いた。泣き続けた。私は何年も前のことを悔やんだ。言えばよかった。逃げないで、ちゃんと。
大粒の涙がまた、私の目から落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!