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「ええっと、うん、その、迷惑じゃなかったら、それ、もらってくれない、かな?」
龍一はそっと指輪を外し、あたしの左手をとる。どうしよう、手が震える。
薬指に指輪が通される。
左手をそっと目の高さまで持ち上げて、眺める。
どうしよう。もうどうしたらいいかわからない。
少しカーブしたデザインのピンクゴールド。中央に控え目に小さな石が三つ程光っている。真ん中の一つはアクアマリン。あたしの、誕生石。
「ごめん、安物なんだけど」
龍一が言う。そんなこと、どうでもいいのに。だって、
「ううん、どうしよう、嬉しい、ありがとう」
まさか指輪、もらえるなんて思っていなかった。結局、欲しいなんて言えなかったし。期待してなかった。
だからこそ、すごく嬉しいどうしよう。
「あと、その……」
龍一の言葉に、顔をそちらに向ける。
彼はポケットからもう一つ指輪をだし、それを自分の手にはめた。
あたしにそれが見えるようにしながら、
「ごめん、これペアリングで、その……、嫌だったり、する?」
伺うようにして、あたしを見る。
あたしのと同じようなカーブを描く指輪。彼のは色がシルバーで、真ん中の石はついていなかった。
自分のと彼のを見比べる。お揃い。ペア。
嫌なわけが、ないじゃない。
「ぜんぜんっ」
もう、どうしようもなく泣きそうで、そう言うと、そのまま彼の首筋に抱きついた。
彼は少しよろけたけれども、そのまま背中を支えてくれる。
「沙耶……?」
「ありがとう、嬉しい、どうしよう」
涙が止まらない。
どうしよう。嬉し過ぎて困っている。
「嬉しい。指輪、欲しいなって思ったけど。あたしが言うと重いかなって。年上だし、妙な現実感があって。だけど、やっぱり嬉しい。ありがとう」
どうして、あたしが欲しいものがわかるのだろうか。嬉し過ぎて、好き過ぎて、幸せ過ぎて、愛し過ぎて、もうどうしたらいいのかわからない。
正直、困惑している。
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