あたしが生まれた七年後に

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 体をそっと離す。 「ありがとう」  もう、本当にそれしか言えない。 「ううん、誕生日、おめでとう」  向かい合ったまま、どちらともなく指を絡める。指輪がかちゃり、と音をたてた。  そのままそっと、一度唇を合わせる。  額と額をこつんとくっつけたまま、彼が呟いた。 「いつか、さ」 「うん?」 「これは本当に安物なんだけど、いつか、もっといいもの、プレゼントさせて?」  じっくりその言葉の意味を考えて、 「……まったく、もうっ」  それしか言えなかった。  なんなのだろうか、そんな遠回しなプロポーズ予告。また泣きそう。  困ってしまう。  もう一度軽くキスをして、 「ケーキ、食べようか!」  龍一が笑った。照れくさそうに。 「うん」  頷く。  いただきます、とケーキを口にする。少し甘さ控えめの生クリームに苺の酸味。 「おいしい」  スポンジもふわふわだった。 「よかったー」  龍一が安心したように笑った。  テーブルの上、彼の左手を見る。光る指輪。  自分の左手にも。  何度見ても、笑みがこぼれる。 「本当に今日は嬉しい。なにもかも。どうしたらいいかわからないぐらい」 「大げさな」 「本当に」  付き合いだしてから、ずっと困惑している。あたしの知らない大学生活を話す彼に。どんどん大人っぽくなる彼に。ちょっとした年の差に。初めての体験に。そして、好き過ぎて、嬉しいことが続き過ぎて、困っている。 「ならいいんだけど」  龍一は微笑んだ。
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