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さて、と向き直った台所。
円さん直伝の、簡単に作れてそれなりに見栄えのする料理のレシピをとりだす。ビーフストロガノフ。ハッシュドビーフやハヤシライスと何が違うのかはイマイチよくわかってないけど。
母にからかわれながらも家で一回作ってはみた。なんとか上手くいったから、あの通りにやれば大丈夫。
よっぽど頼りなく見えたのか、
「大丈夫? 手伝おうか?」
背中に声をかけられる。
「大丈夫!」
振り返る余裕もなく言葉を返す。
あー、あとここからどうするんだったけ。レシピをよく見ようと顔を近づけて、お皿を倒しそうになる。危ない危ない。
「大丈夫だから!」
何か言われる前に言葉を投げる。
「わかった」
少しだけ笑いを含んだ声で言われた。なんか悔しい。
ばたばたと、動き回って完成したのは結局お昼時を少し過ぎたころだった。
「遅くなってごめん……」
あんなに息巻いてたのに。かなり待たせてしまった。
ビーフストロガノフと、家で作ってきたマカロニサラダをテーブルに並べる。
「嬉しい、ありがとう」
にこにこと微笑みながら沙耶が言うから、それで少しだけ救われた。あとは、味だ。
「いただきます」
沙耶の口に料理が運ばれる。
「ん、美味しい」
左手を口元にあてて、笑う。
「凄く嬉しい、ありがとう」
その言葉に、肩の荷が降りた。滅多に感情表現をしない彼女の、本当に嬉しそうな顔に安堵する。
円さんに全力で感謝した。
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