俺が生まれる七年前に

15/16
前へ
/16ページ
次へ
「ごちそうさま」  両手を合わせて微笑み、 「本当に、ありがとね。嬉しい」  だめ押しのようにもう一度沙耶は言った。 「よかった。でも、あとデザートがあるんだ」 「本当? すごい」  二度両手を叩く沙耶に、少し待っててと席を立。  冷蔵庫の中から、家で作ってきたケーキをとりだす。苺が沢山のったケーキ。ロウソクを長いのを二本、短いのを六本さすと、灯をともす。  誕生日の歌をうたいながらもっていくと、沙耶は恥ずかしそうに少し俯いた。残念ながら俺もすごく恥ずかしい。この部分はいらなかった気がする。  それでもなんとか歌い終わると同時に、少し照れた様子で沙耶が火を消した。 「誕生日、おめでとう、沙耶」  沙耶は少しだけ赤い顔で、はにかんだように笑う。 「ありがとう、こういうの本当に久しぶりで恥ずかしいけど、どうしよう、嬉しい」  訂正。やってよかった。頬に手を当てて、どうしよう嬉しいなんて呟かれたら、俺の少しの気恥ずかしさなんてどうでもいい 「切り分けてくるから、ちょっとまってて」  これで終わりじゃない。問題はここからだ。 なるべく大きい苺で、生クリームが綺麗にできている部分を選んで切り分ける  よし、これで大丈夫。一つ深呼吸して、 「お待たせ」  そのケーキを沙耶の前に置く。 「……これ」  ケーキをみて、小さく沙耶が呟いた。具体的には、ケーキの苺に軽くのせられた指輪をみて。 「その、迷惑じゃなかったら、もらってくれない、かな?」  沙耶の左手をとる。どうしよう、手が震える。その薬指に指輪を通す。  ああ、思った通りだ。この指輪はよく似合う。  沙耶は左手をそっと目の高さまで持ち上げて、眺める。 「ごめん、安物なんだけど」 「ううん、どうしよう、嬉しい、ありがとう」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加