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「あと、その……」
隠す様にして持っていた、自分の指輪をはめる。沙耶にそれが見えるようにしながら、
「ごめん、これペアリングで、その……、嫌だったり、する?」
伺う様にして顔を見る。
沙耶は自分の指輪と俺の指輪を少し見比べて、
「ぜんぜんっ」
なんだか泣きそうな声でそう言った。
そのまま、首筋に抱きつかれる。
少し態勢を崩し、そのあと慌ててその背を支える。
「ありがとう、嬉しい、どうしよう」
泣いている声で言われた。どうしよう、困った、嬉しいのは俺の方だ。
「嬉しい。指輪、欲しいなって思ったけど。あたしが言うと重いかなって。だけど、やっぱり嬉しい。ありがとう」
よかった、本当によかった。指輪にしてよかった。こんなに喜んでもらえて、嬉しいのは俺の方だ。
腕が離れる。
少し赤い目で沙耶が笑う。
「、誕生日、おめでとう」
向かい合ったまま指を絡める。指輪がかちゃり、と音をたてた。
そのままそっと、一度唇を合わせる。
「いつか、さ」
「うん?」
額を額をくっつけたまま、
「これは本当に安物なんだけど、いつか、もっといい物、プレゼントさせて?」
言うと、まったくもうっと少し怒ったような言葉が返ってきた。でも、それが照れ隠しだっていうのは、分かっている。
左手の指輪の感覚、普段付け慣れない感触に戸惑いながらも、もう一度口付けた。
そう、願わくは、これから数年後、もう一度きみのその手に指輪をはめることができますように。
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