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 彼女の家には、警報機は付いていなかった。だから俺はガラスカッターで開けた穴から手を突っ込み、タンブラー錠を内側から外して、窓ガラスを静かに開けた。そうして靴を脱いで家に入る。  室内はまっくらである。けれどもどこに何があるか、眼をつぶったって分かるし、今日の昼間も遊びに来ていたから、フローリングの床はきれいに片づいていた。足音をたてないようにだけ注意して、隣の寝室を目指す。  いくらサプライズといっても、やりすぎかもしれないとは思った。けれども彼女が怒ったりはしないのは分かっている。もっともガラスカッターまで使ったことはあきれられるかもしれないが、ここまでやらないと驚いてくれないのである。  俺はサプライズが好きだった。付き合い初めてから二年になるけれども、誕生日はもちろん記念日や祝い事があるたびに、いつも何かしらびっくりするような趣向を凝らしてきた。プレゼント自体が何かを隠しておくのは当たり前で、プレゼントをいつ・だれが・どこで・なぜ・どのように渡すのか等、5W1Hを様々に変えた企画を立案し実行に移してきたのだ。  けれども何事も慣れてくるものだ。彼女の驚きかたが弱くなってきたのである。サプライズが当たり前になっているので、自然と状況を予測するようになっているらしく、もちろん表面上はびっくりしてくれているけれども、やはり本当に驚いているかどうかは分かる。  プレゼンターとしては恥ずべきことだ。もっと彼女が予想もできないようなサプライズを考える必要があった。  そこで家に忍び込むことを思いついたのだ。部屋の合い鍵を預かったりはしていないから、まさか夜中に入ってくるとは思うまい。企画のコンセプトは「怪盗」で、全身黒づくめのタイツと、覆面も用意した。それを持って二階のベランダによじのぼり、速やかに衣装に着替えた後、ガラスカッターを使い始めたのである。
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