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 寝室の前に着いた。ドアなどの仕切りはないので、カーテンを代わりに取り付けている。それを手でゆっくりと押しのけて、彼女の部屋に滑り込んだ。布のこすれるかすかな音しかたてなかったと思う。  それなのになぜか、同じ音が断続的に聞こえている。ぎくりとして室内を見渡すと、ベッドが山なりに盛り上がって、暗闇の中で白くうごめいていた。おそらく彼女が寝付けなくて、何度も寝返りをうっているのだろう。  来るのが早かったようだ。一端ベランダに戻ろうと思って、来た道を引き返そうと振り向いた。けれども違和感を感じて、もう一度ベッドのほうをすかし見た。うごめいている掛け布団の山が、なんだか大きすぎるような気がしたのだ。それに耳をすましてみれば、衣ずれの音だけではなくて、女性のあえぎ声のようなものも聞こえる。  やはり来るのが遅かったようだ。俺は今、恋人の浮気現場に遭遇しているらしい。怪盗の扮装をして、彼女の心を盗みに来たつもりが、すでに何者かに彼女の体を奪われていたのだ。とんだサプライズである。  ちょうどいいと思った。俺はバックパックから、果物ナイフを取り出した。今夜のサプライズ用に持ってきたものだ。これで自分の素直な気持ちを、行動でもって相手に伝えることができる。有無を言わさずやってやろうと決意して、俺は足音も気にせずベッドに近づいた。
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