あれから

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あれから

 所々に雪が積もり、遮る木立も無い飄々(ひょうひょう)とした草原……そこに引かれた南へと向かう一本道を、一つの影が歩いていた。  季節は真冬。そして、今年も残す処10日程となった年の瀬。  そろそろ年内の仕事を終えた人々は、各々の家庭で新年を迎える為の準備に忙しくしている。  そのせいだろうか、影の歩む道は、王都へと続く街道と言っても差し支えないにも関わらず、人通りは殆ど見られなかった。  そして、そんな閑散とした道を歩む一つの影は、行く手を遮るかのような木枯らしに、無言で歩を進めていた……と思われたのだが……。 「もう―――っ! もうすぐ年も変わるって言うのに、何で急な任務なんて入るのよ―――っ!」 「仕方がないよ、エリス。もし魔属たちの仕業なんだったら、こちらの都合なんて御構い無しだからね」  道を進みゆく影は少女で、しかも一人では無かった。  遠目に見れば一人旅としか見えなかったシルエットだが、近づいてみればそれが間違いだったと知らされる。彼女は一人では無く、傍らに小さな、まるでお伽噺に登場する妖精の様な少年を連れ立っていたのだった。   「五月蠅(うるさ)いわね、ユウキッ! 魔属が現れるのはいいのよっ! 仕方がないって分かってるんだからっ! あたしが言いたいのは、何もこの時期じゃ無くて良いじゃないっ! って事なのよっ!」 「……いや―――……だったら、いつなら良いって言うんだか……」  先程から、エリスと言う少女がプリプリと怒りを撒き散らし、ユウキと呼ばれた妖精がそれにツッコミとも相槌とも取れない言葉を返していた。彼女達の会話はどこか喧嘩腰で、傍で聞いている者が居ればハラハラする事請け合いだったろう。    ―――だがそれでも、彼女達にしてみれば、これは随分と進歩した方である。
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