240人が本棚に入れています
本棚に追加
小刻みな振動がおさまり、屋上への扉が開いた。
目に飛び込んできた真青の空は、普段であれば極上の心地良さを与えてくれるはずであるのに。
障害物も雲も一つもなく、隅々まで澄み渡っている綺麗な碧色が、今は自分たちを嘲笑っているように思えてならない。
「何もないな」
少年が落下した際の目撃証言は幾つか取れており、自らの意思でこの屋上から転落したことに間違いはない。
赤に染まった靴は、遺体と共に既に回収されていた。
丁寧に揃えられた靴が、自殺の始発点に残されている時もあるのだが。
ここには本当に何もなく、所々に微細なひびを刻ませたコンクリートだけが冷たく佇んでいる。
数時間前にここで一人の人間が命を絶ったという現実が、皮膚から下へ浸透してこない。
最初のコメントを投稿しよう!