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「この単細胞が!危ねえだろ!」
自分を気遣っての言葉なのだろうが、今は外耳から伝わる振動波が痛みを増幅させている。
杉田さんは限度というものを知らない。
「すみませんでした。これ」
素直に謝ってしまうのが一番手っ取り早いのだと、もう経験済みだ。
手渡した紙を杉田さんは未だ不機嫌な顔を消さずに受け取った。
まだちゃんと目を通してないが、おそらく遺書だ。
黒いインクで連ねられた複数の文字が見えた。
杉田さんが読み終わるまでじっと待つ。
最後の叫びを目にする時、杉田さんは怒りや悲しみの感情を抑えることがない。
表情や身体の震えから、彼の心情が容易に伝わってきてくる。
しかしそれは、杉田さんの視線が手紙の後半部分に差し掛かったところで変化を見せた。
何かに戸惑っているような、困惑しているような。
杉田さんと長く関わってきたが、初めて見る光景だ。
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