生贄

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少女の声は先程の楽器の音色よりも低く、ハスキーな大人びた声だった。 「それは何?」 「……は?」 少女が手に持つ二つ一組であろう楽器を見ながらそう言うと、彼女は怪訝な表情を露わにした。 「…バイオリンだけど。最初に聞くことがそれ?」 「へえ。初めて見た」 二百年程前にあった戦争で世界中の様々なものが燃やし尽くされた。 戦争が終わり復興が始まっても、必需品でないものを新たに製造する余裕はなかった。 世界が安定して平和が訪れても、楽器というものは必要とされなかった。 今はAIやコンピューターでどんな音でも構築できるからだ。
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