終わりの始まり

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「おい、起きろ桐生」 後頭部に鋭い衝撃と痛みが走ったあと、知った声が鼓膜へと届いた。 微睡みの中、聴き慣れた低音が頭の中で繰り返される。 起きろ…起きろ…起きろ? 薄く開いた瞼の先に映ったのは、自分を叩き起こした上司のニヤけた顔と、窓から射し込む眩しい光。 「……おはようございます。杉田さん」 上半身をゆっくり起こすと背中から腰にかけて嫌な音が響き、なんとも言えない鈍痛が皮膚の下でざわめき出す。 この世に生を受け二十四年。まだまだ若いと思っていたが、机に突っ伏す形で一晩を過ごすと、流石に身体の節々が悲鳴を上げる。 「また居残りか。どうせ寝るならちゃんと家帰れよ」 「寝ていませんよ。目を瞑っていただけです」 「嘘つけ」 この状況で呆れた表情を全面に出す上司を、もう何度見ただろう。 家に帰っても特にやることがない。 移動の面倒臭さを考えると、わざわざ帰宅する必要性がどうしても見い出せないのだ。
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