「恋人」

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 もはや僕は部屋から出ることすらできないが、彼女が心を許してくれたから、部屋を歩き回ることくらいならできる。携帯も彼女が場所を教えてくれた。やがてこの体から養分は尽きてしまうだろうが、その時は知り合いを部屋に呼び出そう。彼女のために、いい栄養となってくれるだろう。なに、心配は要らない。皆驚きはするだろうが、彼女のために死ぬことは絶対不変の至上の命題なのだから。誰であれ、それが最も喜ばしい最後に違いないのだから。  数週間は何も口にしていないが、僕と彼女はもう一つだから、きっと死ぬことはないのだろう。僕の身体を苗床に、彼女は永遠に咲くだろう。ひどく美しく咲くだろう。  世界で一番美しいもの。  世界で一番大切なもの。  ああ……綺麗だ……  これが、大切な、僕の恋人……  * * *  ある通り、まばらな道行く人々を眺めながら、気怠い昼下がりの日差しの中、男は静かに、穏やかに独り言ちる。 「プレゼントを気に入って頂けて何よりです。やはり、あの花の素晴らしさは、皆々様に伝わるものなのですね」  男の目が通行人を舐めていく。不安、孤独、諦念。そんな感情を表情から、足取りから、敏感に男は察知する。  そんな心の曇りは取り除いて差し上げなくては。自分はあらゆる悩みに対する答えを知っているのだから。 「そこのあなた。花を育ててみませんか? 現在プレゼント・キャンペーン中なのですが……」                                          (了)
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