第二夜 追憶の城にて

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第二夜 追憶の城にて

Ⅱ ある小さな街に、一人の女の子が住んでいました。 女の子のお父さんはとても転勤が多いお仕事で、女の子はこの春にこの街に引っ越して来たばかりでした。 クラスには前の学年から一緒だった仲の良いお友達の輪ができていて、転校生の女の子のことなどぜんぜん興味がないようでした。 まして、彼女はとても恥ずかしがり屋でしたから、自分からお友達に話しかけていくことができませんでした。 だから、女の子はいつも一人ぼっちでした。 楽しい夏休みの始まりだというのに、女の子には一緒に海水浴に行くお友達も、鬼ごっこするお友達もいませんでした。 寂しくないと言えば、嘘になるでしょう。 でも、女の子はお友達を作ることを半ば諦めていました。 ですが、女の子に全くお友達がいないという訳ではありません。 女の子には、ちゃんとお友達がいました。 それは「絵本」です。 確かに、お話をしたり、一緒に遊んだりはできませんが、女の子は絵本が大好きでした。 絵本の中に広がる、夢の世界に自分を遊ばせることが大好きでした。 そして、女の子は自転車も大好きでした。 誕生日に買ってもらった、赤い自転車。     
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