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第一夜 幻想画廊にて
きらきらと光る、木漏れ日の中。
むせ返るような程に漂う、薔薇の香り。
見ると、私は薔薇の海の中にいた。
光の中に、白い背中がぼんやりと浮かび上がる。
貴方は、誰?
知らないのに、懐かしさを感じさせる背中。
その広い肩は、微かに震えていた。
「僕は、ただ……彼女と……一緒に……」
誰?
あなたは誰なの?
私の手が、彼に触れそうな瞬間。
振り返るように、夢から醒めた。
Ⅰ
もういくつの駅をやり過ごしたのか。
窓の外は闇が流れていくだけ。
やがて現れたネオンの広告に、うんざりしながら正面に座り直す。
聞き取りにくい駅員のアナウンスが告げるのは、聞き慣れない名前の駅名。
東京でのOL生活はもう三年になるが、地下鉄を利用するのはもっぱら
通勤時だけだったので、知らない駅があっても別におかしくはない。
まして今日は、ひどく通勤ルートから外れている。
私はいい加減、電車に揺られるのにも飽きたので重い腰を上げた。
いやに寂しい感じのプラットホーム。
ホームを照らす電灯が、切れかけているのかちらちらと点滅をしているのが不快だった。
私以外に降りた客はいなかった。
錆付いた標識の駅名は、やっぱり私の知らないものだった。
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