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ひどく寂れた雰囲気のホームからを這い出ると、ちょっとした繁華街に出た。
繁華街とは言え、大した流行っているとはお世辞にも言えない程に人の気配が感じられない。
だが、都心部の人の波に閉口していた私にはむしろ好ましく映った。
「どこを見ているんだ?君は……」
丁度、二時間前の彼の言葉が脳裏にフラッシュバックする。
唇が触れ合う寸前。
温和な彼が放った突然の言葉。
引き剥がされる体。
私は言葉を失った。
彼は打ちのめされる私に、刃のような言葉を突き刺す。
「君の目は、いつも別の誰かを見ている……」
彼はそう言って、私の肩を掴んだ。
すごい力だった。
痛い。
どうしたの?
私は訳もわからずただ、彼の顔を見つめることしかできなかった。
今日は私のバースデーだった。
この歳になると、誕生日なんて嬉しくもなんともない。
でも。
特に約束をした訳ではなかったのだが、恋人であり上司であったその男性は、突然私の部屋を訪れた。
「どうしたの……?」
「君がそそっかしい人間だということはよく知っていたが、まさか自分の誕生日まで忘れてしまうとはね。
ハッピーバースデー」
少し照れながら、彼が差し出したのは真紅の薔薇。
「イヤッ!」
次の瞬間、私は彼から贈られた真紅の薔薇の花束を思いっきり彼にぶつけていた。
「何するんだ。君は!」
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