第二夜 追憶の城にて

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今まで、自分の話をこんなに真剣に聞いてくれる人なんて、女の子にはいませんでした。 優しいお母さんだって「はい、はい、そうよかったわね」と家事に気を取られて、よく聞いてはくれません。 それなのに、彼はまだ幼い女の子の話を聞いてくれました。 そして、それに笑顔で答えてくれるのです。 それは女の子にとって、なによりも素晴らしいことでした。 これが友達というものなんだと心の底から喜びを感じました。 お母さんが、 「最近明るくなったわね。なにか、いい事でもあったの?」 と聞いてきました。 女の子は危うく彼の事を言ってしまいそうになって、とても慌てました。 そして、嬉しくなりました。 これは、秘密なのです。 「王子様」と自分だけの……。 無意識のうちに笑ってしまっていたのでしょうか、お母さんが不思議そうな顔で女の子を見つめていました。 * 「王子様」の所へ通いだしてから何度目かの夏が過ぎ、女の子はセーラー服の中学生になっていました。 優しかったお母さんは、近所の影響で突然教育ママへと変貌し、彼女を有名な進学校へ合格させようと躍起になっていました。 お父さんは相も変わらず家庭には無関心で、少女は人知れず更に深い孤独の中にいました。 その孤独を癒してくれたのは、他でもない「王子様」でした。     
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