第一夜 幻想画廊にて

3/13
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
悲鳴のような声に慌てて見ると、彼は薔薇の棘で頬を切っていた。 「あ……ごめんなさい……」 私は我に帰って、慌てて謝った。 身体が小刻みに震える。 無残に床い散らばった花弁さえも、私は正視することができなかった。 「いったい、どうしたって言うんだ? せっかく君のためにこうして、花束を抱えてきてやったっていうのに。 僕はとんだ道化だな」 彼は切れた頬を摩りながら、言った。 「ごめんなさい……。 私……私……。 昔から、薔薇が怖くて怖くて仕方がないの」 「えっ……?」 彼は明らかに怪訝な顔をした。 無理もない。 私自身、おかしなことだと思う。 もしこれが友人のことだったら、私も同じ対応しかできなかっただろう。 理解できるはずがない。 花が怖いなんて。 私は数年前に、このことでカウンセリングを受けたことがあった。 会社の同僚が勧めたのだ。 私は、うっかり彼女と飲みに行った時『薔薇恐怖症』のことを話してしまっていたらしい。 翌日彼女は早速、私に評判の精神科医を紹介してくれた。 そういえば、彼女は会社でも評判の世話好きな女だったことを思い出し、いたく後悔した。 それでも、私自身も気にしていないと言えば嘘であった。 薔薇が怖いなんておかしいし、極めつけは、何度も何度も見る同じ夢。     
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!