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悲鳴のような声に慌てて見ると、彼は薔薇の棘で頬を切っていた。
「あ……ごめんなさい……」
私は我に帰って、慌てて謝った。
身体が小刻みに震える。
無残に床い散らばった花弁さえも、私は正視することができなかった。
「いったい、どうしたって言うんだ?
せっかく君のためにこうして、花束を抱えてきてやったっていうのに。
僕はとんだ道化だな」
彼は切れた頬を摩りながら、言った。
「ごめんなさい……。
私……私……。
昔から、薔薇が怖くて怖くて仕方がないの」
「えっ……?」
彼は明らかに怪訝な顔をした。
無理もない。
私自身、おかしなことだと思う。
もしこれが友人のことだったら、私も同じ対応しかできなかっただろう。
理解できるはずがない。
花が怖いなんて。
私は数年前に、このことでカウンセリングを受けたことがあった。
会社の同僚が勧めたのだ。
私は、うっかり彼女と飲みに行った時『薔薇恐怖症』のことを話してしまっていたらしい。
翌日彼女は早速、私に評判の精神科医を紹介してくれた。
そういえば、彼女は会社でも評判の世話好きな女だったことを思い出し、いたく後悔した。
それでも、私自身も気にしていないと言えば嘘であった。
薔薇が怖いなんておかしいし、極めつけは、何度も何度も見る同じ夢。
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