4.手紙

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思い返せば、診断書をもらう時が一番緊張したものだった。 まさか安楽死を頼むために診断書が欲しいとは言えない。 会社を退職するために必要だと言い、診断書をもらった。 担当医に話すときも声が上擦らないか注意した。 何かを悟られたら、後々面倒になると考えたからだ。 幸い、スイスの団体は画像で添付すればいいと言ってくれた。 診断書を派遣会社に見せ、コピーを渡し、原本は再び自分の手元に戻した。 その診断書も旅行鞄に入れる。 こんな想いも空港から旅立てば、もう何の意味もなくなる。 あと数日我慢すれば、自分の存在もなくなるのだから・・ ホテルのベッドに身を置き、明日を思い描く。 明日の朝には空港に・・そして、長い空の旅の先にはスイスに至る。 思い残すことがあるのなら、このベッドに置いていこう・・ 部屋の電気を消し、闇に身を置く。 眠りはもうすぐそこまで来ている。 永遠の眠りはどんな景色の中で見るのだろうか・・。 そんなことを考えながら、眠りの領域に進んでいった。
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