4.手紙

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スイスに着き、空港から出る。 空を見上げると、そこには日本と同じ色の空が広がっていた。 この空の雲はどこへ流れていくのだろうか・・? かつて空を見上げたことがあった。 その時の空もこんな青空だった・・ 「この空の雲は・・日本まで流れていくのかなあ・・?」 純粋な疑問が頭に浮かび、少し笑みが漏れる。 終の旅路の途中でこんなにも安穏として情景を楽しめるなどとは・・。 それでも着実に時間は進む。まるで絞首台の階段を一段ずつ踏みしめて上るように・・ 見渡すと団体のスタッフが迎えに来ていた。 「こんにちわ・・星野さん。」 スタッフは日本語を話した。このところ日本からの依頼も増えたようで、英語以外を話せるスタッフを増やしているらしい。 彼の運転で団体の施設に向かうことになった。 道中、話をすることもなく景色を眺めた。 スタッフの彼の名前を聞かず、世間話もせず・・ すぐに別れを迎える相手と関わることを、おそらくお互いが避けたかったのかもしれない。 こうして施設の前に着く。 「まず、星野さんには当団体所属の医師の診察を受けて頂きます。 診断書は確認させて頂きましたが、間違いがないようにこちらも診断する必要がありますので・・。その後は用意させて頂いた部屋で過ごして頂きます。 診察が済みましたら、玄関前の受付までいらして下さい。」
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