4.手紙

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広瀬武尊の元に猛のエアメールが届いたのは、青い空に雲1つない日のことだった。 武尊はそのエアメールが届いたことで理解した。 星野猛はもうこの世界にいないということを・・・・ 初めて猛がこの会社で登録をした時から数年もの間、一緒に仕事をやってきた。同じ名前ということもあって意気投合し、派遣先を何度か変わっても、担当を変わることはなかった。 そんな猛がこの世界を旅立った。 せめて、この手紙は上杉葵に届けなくてはならない。 託された想いを叶えるために・・・ 武尊は大阪のセンターで働く派遣社員に葵の住所を聞き出してもらうように頼んだ。そして聞いた住所に向かう。 そこは住宅街の中にある簡素な住宅だった。 小さな家庭・・ささやかな幸せのある家だった。 星野猛が上杉葵にどんな想いを持って、この手紙を書いたかは確認しようがない。 それでもいい・・彼との約束は、この手紙を葵に手渡せば終わる。 そう思いつつも、玄関の呼び鈴を押せないでいた。 もしも、手渡そうとして拒否したらどうしようか・・ うまく渡すことができなければ約束は果たせない・・ 少し思い悩み、結局呼び鈴は押さずに帰路に着く。 そして、近くのポストに住所を書いて投函した。
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