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1.おたがいのルール
ーこれは僕のささやかな復讐なのですー
星野猛から上杉葵へ届けられた手紙の冒頭はそんな始まりだった。
二人のルールには、お互いのテリトリーに侵食しないという取り決めがあったはずだ。
しかも、あの日の別れからすでに何ヶ月が経ったのだろう・・・。
猛の名の手紙をポストで見たとき、葵の心のざわめきはそよ風の中に一陣の風が吹いた後の水面のように変化していった。
何より・・・この手紙を夫に見つかることがなかったのが救いというべきだろうか・・。
最初の一文だけを読み、思わず便箋を封筒に戻して鞄にしまった。
自宅の玄関でこの手紙を読む勇気がない。
できるなら、誰もこない・・できるなら自宅ではないどこかの一室で・・・
猛への愛情が残っているわけでもない。
思慕のようなものだと思う・・・。
決してあの期間の気持ちに嘘はないし、今でも信じている。
それでも、過去として整理した後では素直に喜べないでいるのだ。
夫はおそらく今日もあと3時間は帰ってこないと思う。
とりあえず帰宅し、最低限の家事だけを終えてから、葵は寝室に入りベッドの上で猛からの手紙をもう一度取り出した。
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