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医者 I
パソコンにデータを打ち込んでいると、一人の看護士が覗き込んできた。彼女はぼくと同じ時期に医療の世界へ踏み込んだ、いわば同期だ。長い付き合いだが、この頃、何かと話しかけてくるようになった。
「それ、今『不死の薬』を投薬してる患者さんの?」
「ああ。ボタンが押された回数をグラフにしていた」
「今のところ、合計回数は?」
「…一回だ。三日前に一回。開始から二週間も経つのに」
「あの人、毎日退屈そうにしてるものね。生きたい理由も特にないのよ、きっと。あ、でも三日前って、初めて奥さんと娘さんが二人で面会しにきた日よ。ちょうど私が部屋の掃除をしていたときだから覚えてる」
ならこの一回は、娘と会ってもう少し生きたいと思ったということなのだろうか。
「面会って言っても、入院費の支払いとか、奥さんと事務的な話をしてただけよ。娘さんはずっと端っこでスマホ触ってた。まさに反抗期って感じでね」
ぼくはため息をつく。
「じゃあこの一回も気まぐれに近いのか。君はどう思う?この薬…」
今度は彼女がため息をついた。
「私が何を言っても信じるんでしょ?『不死の薬』を。…あなたが作ったんだものね」
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