男 II

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男 II

 あの日、なぜボタンを押したのだろう。何も考えるべきことがない中で、ときどきそう 思った。 ボタンを押した翌日、少し体が軽く感じた。それが気に入らなかった。不死の薬の効果は延命だけだったはずだ。だとしたらあの感覚は、薬よりも気持ちによるものである可能性が高い。ボタンを押したことで、おれの中に深く沈んでいた、生への執着が肉体の方へ浮かび上がってきたのではないか。  その考えを認めたくない一心で、今ではボタンもベッドの下に落としていた。
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