プレゼントとの別れ方

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 固い決意を胸に、早足で帰宅ラッシュの人込みを縫って辿り着いたワンルームで咲紀は腕を組んで立ち、どれから手をつけていこうかと戦略を練った。遠い過去の物はまとめてクローゼットの奥深くの一角に置いてある。家中のいたるところに散らばった最近のプレゼントの収集という、より体力的に困難な作業から始めることにした。  最初に手を付けたのは最後に彼から贈られた誕生日プレゼントの最新式ヘアドライヤーだった。現役で気に入って使っている物だけに早くも捨てる決心を揺さぶられたが、これを捨てても古いドライヤーが洗面台の戸棚に放置されているし、髪を乾かせないこともないと容赦なくゴミ袋に放り込む。誕生日前にこのドライヤーにするか新機種のスマートフォンにしてもらうか迷ったが、今となってはドライヤーを選んで本当によかった。もう一方の選択をしていたら、計画が出鼻から挫かれていたことだろう。  最も使用頻度の高かった物を片付けると勢いがついたのか、その後の廃棄作業は思いのほか順調に進んだ。二か月前に設置した加湿器にコンセントのコードを巻き付け、店頭ではしっくりきたが自宅での一晩の使用で肩こりになった以後は来客用と化した枕を引っ張り出し、一時期マイブームでスムージーを作っていたミキサーを台所の吊戸棚から探し当て、旅行先で紛失した物の代用品で今は接続する本体のない充電器とコードをポーチごとゴミ袋に入れた。続けて、取っ手のとれたマグカップ、薄汚れたスマホケース、面倒で使わなくなったマッサージ器、へたったビーズクッションと次々に発掘、処分していった。  ふと、順調に膨らんできた透明なゴミ袋の中身を凝視すると家電や日用品ばかりである。咲紀の方から彼に贈った物達も似たり寄ったりで、確かヘッドホンや、スチームアイロン、電気ケトル、掃除機といったところだった。  「ときめきが無くなった」。  言われた時には頭に血が上っていて、大の男が何をとしか感じなかった別れの言葉の一部が甦ってきた。この言葉を半年間、何度再生しただろう。
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