プレゼントとの別れ方

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 そのプラスチックケースこそが引っ越す時に実家から持ってきた咲紀のかつての「宝箱」であり、現在の「遠い過去の物」であった。中身はすべて大学卒業以前に彼から贈られたプレゼントだということは分かっていて、改めて中身を確認することなく、蓋を開けてすぐにゴミ袋に流し入れることもできた。それをしなかったのは個人情報が混じっている可能性があるというやや弱い理由があったからだ。とにかく咲紀は蓋を開けると中身を一つ一つ確認し始めた。  ネックレス、ピアス、ブレスレット、アンクレットなどの趣味が変わって身につけなくなったアクセサリー類、ファスナーが壊れた財布、角の傷んだパスケース、洗濯に失敗したマフラー、使いかけの香水、それから箱入りのペアリングの片割れ。どれも安物だけれど若いカップルらしい贈り物だった。  ショッピングパッグまで律儀に残してあるのを手に取ると、中にメッセージカードが入っていた。内容はというと、「これからもずっと一緒にいよう」とか「出会えてよかった」とか「好きだ」とか、いかにもどこかからコピペしてきたらしい月並みな文言が並んでいた。  コピペで、月並みでじゅうぶんだった。普通の恋人らしくいようと、プレゼントやメッセージに頭を悩まし、友人に相談し、ネットで情報を検索している私たちでよかったのだ。無駄がない、合理的だとお互いを曝け出してしまった私たちは間違えていたのだ。  でも、と咲紀は再び実用品の詰まった袋を見た。間違えたのは「私たち」だったのだろうか。  「すっぴんの方がかわいい」とか「足を痛めるくらいなら無理して踵の高い靴履くな」とか「俺の為に無理することない。自然体でいてほしい」とか言っていたのは誰だったか。挙句、「ときめきが無くなった。女として見れなくなった」と吐いたのはどの口か。  通信販売の梱包で使われていた段ボール箱が、たたまれた状態で箪笥と壁との間に挟まっているのが目に入った。
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