プレゼントとの別れ方

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 飲みすぎたビールのせいで尿意を感じ、意識を取り戻した頃にはとっくに正午を過ぎていた。トイレに行きたくても暖かい布団の中から出る勇気が出ず、ぼんやりしている間に、咲紀は昨日までは些細だったが今日からはとても重大になった案件に思い至った。  近々、高校の同窓会が催される。元恋人と咲紀は同じ高校の同級生だった。同窓会の案内が来た時、既に失恋していた咲紀は元恋人との再会を避けるため、欠席の返事を出した。彼は多分、出席するだろう。恋人としての気遣いには些か欠けたが、友人達に対しては異常に付き合いのいい男であった。それでも彼は自分から振った恋人を友人たちの前で悪く言うような人間ではない。シラフでなら。  酔った時の彼の口の軽さは、普段の無口な彼からは全く想像できない程だった。咲紀の所業が二次会三次会の男子連中の間でだけ広まるならまだいいが、彼はめっぽう酒がまわるのが早かった。そして酒がまわると妙に声がでかくなった。  高校時代の友人たちの顔が浮かんでくる。彼女達はまさか咲紀にこんな薄暗く意地の悪い面があるとは思っていなかっただろう。高校生の時の咲紀だって自分があんなことをしてしまう人間になるなんて思っていなかった。  万が一にでも彼が咲紀の行いを高校の同窓生たちに話さないでいてくれたらと願うが、元恋人と咲紀は大学でも同級生だった。卒業後、大学での友人達と疎遠になった咲紀と違って元恋人は頻繁な交流を続けている。そして、酔った時の彼はたいへん口が軽いし声がでかい。  ネットでの発言には常に人一倍神経をつかってきたというのに、一晩のリアルな行動で高校大学合わせて七年間の友人知人に人格を疑われることになるとは。  「あぁ、やっちゃった」  十年の長い付き合いが残したものはプレゼントや二人の思い出だけではなかったのだ。
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