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『シュッ、シュッ、シュッ』
『この距離で描く優の姿も新鮮だな』
『そうですね絵美』
冬休みの間は家に居ても御袋殿が煩わしいので。同級生で同じ美術部に所属をしている優の家にお邪魔して。優と一緒に同じ炬燵に入りながら、炬燵の中で私の足と優の足が触れるか触れないかの微妙な距離を保ちつつ。至近距離から炬燵に入っている優の上半身の姿を描かせてもらっている。
『悪いな優。せっかく優の家族が全員親戚の家に出掛けていて、優が一人で羽を伸ばして過ごしている家に邪魔をして』
私の謝罪に優は、いつものように柔和な笑みを浮かべながら首を横に振ると。
『気にしなくて構いませんよ絵美。私も親戚の集まりは煩わしく感じるので、こうして自宅での留守番に名乗り出たのですからね』
『そうか。それならば良いのだが』
優の家族は毎年御正月には、一族全員集まる習慣があるのだが。優だけは毎年自宅に残って、私が御袋殿から逃れる為に訪れても必ず家の扉を開けてくれる。
『優は私が芸術の創作活動に勤しんでいる時の表情を見詰めるのが、本当に好きなようだな?』
筆を走らせながら私が優に対して話し掛けると、優は炬燵の上の蜜柑を手に取り皮を剥きながら。
『芸術に全てを捧げている、絵美の真剣な表情に私は美を感じていますからね。はい、絵美。口を開けて下さいね』
『うん、判った』
『蜜柑のビタミンは、絵美の芸術の創作活動の助けにもなると思いますからね』
優が皮を剥いてくれた蜜柑を一房私の口の中に入れると、穏やかに微笑みながら私に対して言ったので。私は口の中の蜜柑を咀嚼して、甘酸っぱい感覚が口内に広がるのを感じてから。
『そうだな。冬場は日の光が弱いから、夏場よりもビタミンが必要とされるからな。優』
優は私の話に笑顔で頷いて。
『絵美の言う通りですね』
優はそう言うと、残りの蜜柑を自分の口に入れて味わって食してから。
『絵美の絵の画材になっている最中に、動いたり蜜柑を食べては描き難いですね』
優が苦笑を浮かべながら話したので。私も苦笑を浮かべながら首を横に振って。
『いや、気にしなくていい。優。そうだな、もう少しビタミンを身体が欲しているようだから。もう一つ蜜柑の皮を剥いてもらえるかな?』
私の願いに優は笑顔で、炬燵の上に置いてある蜜柑を手に取ると。
『絵美が望むのでしたら、いつでも幾らでも剥いてあげますからね』
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