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食器を洗っていると、藍がお皿を拭きながら訊いてきた。
「親父さんの所には、いつまで行けばいいんだ?」
「…電話貰った時に、1時間後って言われたから…後30分かな?」
藍の手が止まったので、顔を覗き込むと
「はあ?間に合うのかよ」
呆れてました…。
「だって…」
会いたくない。
「だってじゃねぇ」
「きゃ…!」
軽くお尻を叩かれて、思わず声が出る。
ちょっと文句を言ってやろうと、藍を見上げると、真っ赤な顔をしていた。
なんで?
「…っな声出すんじゃねぇよ。力抜けんだろ」
ぁ…
「…ごめん…」
「良いから、早く着替えて来い」
チラッと見ると、赤いながらも、いつもの優しい笑顔だった。
*****
支度が終わって、下に下りると、入れ替わりで藍が、上に上がっていった。
事務所に行くついでに、送ってくれることになったから。
「…行くぞ」
暫くすると、藍が、スルスルっと梯子を下りてきた。
うわあ…モデルさんみたい。
いや…モデルなんだけど。
オレが、ジーッと見ていると、
「あっ…そっか。合格?」
オレは、縦にブンブンと首を振った。
黒のデニムパンツに、黒のタートルネックのカットソー、白いシャツを上に着ていて、更にその上から、デニムジャケットを羽織っていた。
手元には、黒のフェルトのハット。
「モデルなんてやってたって、私服は地味だから」
藍は、バイクのキーをクルクル指で回しながら、玄関に向かって歩き始めた。
ちょっちょっと待って!
藍に見惚れてる場合じゃなかった。
藍が靴を履こうと、屈んだ所を背後から抱きついた。
「待ってよ…!もうちょっとだけ、このままでいさせて」
「…やっぱ、一条さんて人に何か言われたのか?」
背中に顔をつけたまま、首を横に振った。
だって…だってまだわからないけど…
嫌な予感しかないし…
離れたくない…!
小さく息を吐いて、藍は、オレの手に自分の手を重ねてきた。
「…何か…不安な事があるのか?」
腕がピクッとなってしまうオレ。
「愛…?」
藍は重ねた手の指を絡めながら、はっきりとした口調で、話し始めた。
「何かあったら、直ぐに連絡しろ。
スーパーヒーローみたいに、目の前に現れてやるから」
「…うん!」
オレ達…大丈夫だよね。
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