1.過去の代償

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食器を洗っていると、藍がお皿を拭きながら訊いてきた。 「親父さんの所には、いつまで行けばいいんだ?」 「…電話貰った時に、1時間後って言われたから…後30分かな?」   藍の手が止まったので、顔を覗き込むと 「はあ?間に合うのかよ」 呆れてました…。 「だって…」   会いたくない。 「だってじゃねぇ」 「きゃ…!」 軽くお尻を叩かれて、思わず声が出る。   ちょっと文句を言ってやろうと、藍を見上げると、真っ赤な顔をしていた。 なんで?   「…っな声出すんじゃねぇよ。力抜けんだろ」 ぁ… 「…ごめん…」 「良いから、早く着替えて来い」 チラッと見ると、赤いながらも、いつもの優しい笑顔だった。 ***** 支度が終わって、下に下りると、入れ替わりで藍が、上に上がっていった。 事務所に行くついでに、送ってくれることになったから。 「…行くぞ」 暫くすると、藍が、スルスルっと梯子を下りてきた。 うわあ…モデルさんみたい。 いや…モデルなんだけど。 オレが、ジーッと見ていると、 「あっ…そっか。合格?」 オレは、縦にブンブンと首を振った。 黒のデニムパンツに、黒のタートルネックのカットソー、白いシャツを上に着ていて、更にその上から、デニムジャケットを羽織っていた。 手元には、黒のフェルトのハット。 「モデルなんてやってたって、私服は地味だから」 藍は、バイクのキーをクルクル指で回しながら、玄関に向かって歩き始めた。 ちょっちょっと待って! 藍に見惚れてる場合じゃなかった。 藍が靴を履こうと、屈んだ所を背後から抱きついた。    「待ってよ…!もうちょっとだけ、このままでいさせて」 「…やっぱ、一条さんて人に何か言われたのか?」 背中に顔をつけたまま、首を横に振った。 だって…だってまだわからないけど…   嫌な予感しかないし… 離れたくない…! 小さく息を吐いて、藍は、オレの手に自分の手を重ねてきた。 「…何か…不安な事があるのか?」 腕がピクッとなってしまうオレ。 「愛…?」 藍は重ねた手の指を絡めながら、はっきりとした口調で、話し始めた。 「何かあったら、直ぐに連絡しろ。 スーパーヒーローみたいに、目の前に現れてやるから」 「…うん!」 オレ達…大丈夫だよね。
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