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*****
「親父さんの会社…すげぇな」
藍はバイクに跨がったまま、高層ビルを見上げて呟いた。
「黙ってて、ごめん」
メットを返しながら、藍の顔を伺った。
オレの表情を読み取ったのか、藍はクシャッと笑顔になって
「黙ってたんじゃなくて、話す機会が無かっただけだろ?」
と、オレの頭をワシャワシャっとした。
その手がそのまま、頬まで下りてきて
親指でクルクルっと円を描くように、頬を撫でてから、離れていった。
無くなった体温に、少し寂しさを覚えていると
「…今生の別れみたいな顔すんな。 今日、デートすんだろ?」
オレがコクッと頷くと、綺麗な笑顔を見せてくれた。
*****
最上階の社長室の前。
オレは、大きく深呼吸した。
落ち着け。落ち着け。
父さんと一条さんは、味方だ…
パーカーの下に隠れてるネックレスを握りしめ、扉をノックした。
「はい。どうぞ」
一条さんの声だ。
「失礼します」
扉をゆっくり開けた。
そこは、社長室の前室で、秘書室になっている。
PCの前に座っていた一条さんが、立ち上がってこちらを見た。
「お待ちしておりま…し…た」
オレを見るや、目を見開いて固まったのがわかった。
どこかおかしかったかな…?
でも、それは一瞬の事で、
直ぐに、社長室の前まで案内してくれた。
「社長、愛さまがお見えになりました」
「通せ」
久しぶりに聞く父さんの声に、緊張がMAXになる。
扉を開けてもらい中に入ると、
父さんは、執務机の前に置かれたソファの横に立っていた。
「かけなさい」と促され、父さんの前のソファに座ると、それを確認した父さんも目の前に座った。
「…痩せたな」
今にも泣き出しそうな顔だ。
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