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たっぷりお年玉をもらった冬休み明けのキャンパス。
藍田小瑚奈は、現金三万円をつかみ、その人を待っていた。
来たっ、とカフェテリアの前の、創立者のものでもなんでもない変な銅像の陰から、こちらに向かってくる人影を見つめる。
すらっと背が高く、ちょっと痩せぎすな感じもするが、整った顔をした彼、八束賢人がいつもスーツで大学に来ているのは、ホストをしているので、授業が終わったら、すぐに行けるようにだと聞いている。
黒髪に白い肌、整った顔をしている彼のホストっぽいところといえば、ピアスくらいか。
「八束賢人っ」
と呼びかけ、小瑚奈は彼の前に飛び出した。
しまった。
緊張のあまり、『さん』を付けそびれたっ!
警察が逮捕しに来たみたいになってしまったっ、と思いながらも、既に引っ込みがつかず、小瑚奈は、手にしていた現金を彼に向かい、突き出した。
いきなり、現ナマを差し出され、賢人は、なんだ? というように足を止める。
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