日々死ぬ君を救いたいと思うのは傲慢でしょうか

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 その日の夜、安癸が死ぬ夢を見た。  雨が降っていた。雪が雨に変わったのだろう。  安癸が傘をさして歩いている。見覚えのある、青に白のストライプ。  視界が悪く、薄暗い。  ライトをつけていない軽自動車が一台。  飛び出してきたバイクをよけようとして、軽自動車はハンドルを切った。  青い傘が飛んで行った。  空の灰色道の白、跳ねあがってそれから落ちてくる青色に、朱色がじわじわ広がった。  次の日の帰り道、俺は安癸を呼び止めた。  「あっちに大きな雪だるまがあるらしいぞ。」  「何それ見たい!」  安癸は俺についてきた。  夢で見た道は通らなかった。  軽自動車が事故に遭ったというニュースは聴かなかった。安癸と見に行った雪だるまは半分溶けかかっていた。灰色の空から、雨が降っていた。安癸は残念そうに、青と白の傘をくるりと回した。  その日から、毎日を夢を見る。  工事現場の鉄骨が落ちてきて、つぶれて死んだ。  トラックにひかれて死んだ。  歩道橋から落ちて死んだ。  通り魔に刺されて死んだ。  階段から落ちて死んだ。  倒れた本棚に押しつぶされて死んだ。  川に流されて死んだ。  駅のホームから落ちて死んだ。  良く晴れた夏、海で溺死した。  毎日、来る日も来る日も、安癸は死んだ。死に続けた。  そして俺は、馬鹿の一つ覚えのように助け続けた。夢から外れるように、夢で見たあの死に顔を見ないために。  何度も嫌になって放り出そうとした。それでもやはりできなかった。死にそうなとき、鉄骨が落ちて来そうなとき、車の通りが激しく歯科医の悪いとき、俺は直前で、手を出さずにはいられなかった。  俺はどうあってもあいつのことを見殺しにできないと、この5年で思い知った。  5年、5年だ。安癸は毎日死に続け、俺は毎日助け続けた。  死に続ける安癸と助け続ける俺。  なんて馬鹿馬鹿しい鼬ごっこだろう。  確信した。  この世界は安癸を殺そうとしている。
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