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きっと安癸は、あの日、雪の積もったあの夕方に死ぬべきだったのだ。
俺が雪玉をぶつけなければ、安癸は死んでいた。死ぬはずの人間を生かしてしまったのだ。
それの何がいけなかったのか、俺にはわからなかった。けれどもそれはあってはいけなかったことなのだろう。
死ぬはずの人間は死ななければならない。きっとこの世界にはそんなルールがあるのだろう。
そして死ななければならない安癸は、日々世界に殺意を向けられている。
「一口頂戴?」
「肥えるぞ?」
「肥えません―。食べても太らない体質なんですぅーとか言ってみたい人生だった!」
「つまりお前は肥えるんだろ。」
「ああそうさ気を抜くとな!」
ホカホカとした肉まんを見つめるその両目が鬱陶しくて仕方なく肉まんを半分に割った。鼻腔をくすぐる肉の匂いに頬が緩む。
「半分くれるの!?太っ腹!」
「俺が食べやすい様に半分に割っただけだ。…………おい、冗談だからしゃがみ込むな、みっともない。半分やる。」
「いやっほい!流石敦くん!」
道路にしゃがみ込んでいじけはじめる安癸を放置するわけにも行かず、割ってやればけろっとしながらついてきた。ハフハフとおいしそうに頬張る彼女を横目に同じように齧り付いた。柔らかい饅頭と肉汁のでる餡を堪能しながら無言で歩き続ける。
「……っは、敦君がこんなに気前がいいなんて嘘なのでは!?」
「俺は先行投資型だからな。肥えさせてから食う。」
「いやん、敦くんったら肉食系?」
「お前を肉まんにして食うって言ってるんだが。」
「想像以上にカニバリズム!色気より食い気!」
「お前もなゴリラ。」
俺はもう何もかも諦めていた。毎日毎日死に続ける安癸を、見捨てることができない。それはきっとこれからどれだけの時が流れようと変わらない。少なくとも俺はあいつを見捨てられるように変われる気がしない。
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