日々死ぬ君を救いたいと思うのは傲慢でしょうか

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 「敦くんってさあ、なんか毎日会うよね。クラス違うのに。」  「隣のクラスだし、登下校も同じ道通るんだから毎日顔合わせてもおかしくないだろ。」  潮の匂いがしてきた。  ふと夢を思い出す。夢の中では、潮の匂いがしなかった。  「まあね、でもあんまり会うから私に会いに来てるのかと、」  「公的自意識が過剰なゴリラ。」  「悪口の語彙ゴリラしかないの?」  「多彩な語彙で罵られたいのか?」  「それはちょっと……、」  夢の中ではいつも安癸の後ろ姿しか見えない。俺はいつも安癸の後ろにいるようだった。  だからこんな風に、顔を見ることはない。  俺が安癸の顔を見る時は、いつも横たわる彼女に近づく時だけだ。  「てかさ、敦くん何にも部活やらないし、休みの日もどっかに出かけたりしないし、よくわかんない。」  「それはお前もだろ帰宅部。出不精。」  「はいブーメラン。投げた言葉が戻ってきた―。」  「ブーメランはお前に刺さってそれから戻ってきませんでしたー。」  「突き刺さってんの!?」  夢の中の俺は、何もしない。  安癸が振り向くことはない。  俺はただ、死ぬ安癸の後ろ姿を見送っている。  「……敦くんは、私が危ないといつも来てくれるよね。」  「……お前が常に危なっかしいだけだろ。」  「うん。私はいつも危ない。それで危ないときはいつも敦くんが助けてくれる。」  「……たまたまだろ。」  「そう、たまたまがいつもなの。」  纏わりついてくる死から逃れることはできない。それが世界のルールだ。  死から逃げ出すことはできない。それが身に訪れるまで、死が姿を消すことはない。  「敦くんは私のヒーローだね。」  「……身に覚えがないな。」  「いつも、いつもいつも助けてくれる。」  海が見えた。  青い海は、沈んでいく夕日によって橙に染め上げられていた。どこからか子供の笑い声が聞こえた。  上る月は透き通るような夜を引き連れている。薄紫の幕が下り始めていた。  「助けられない。」  「助けてくれてるよ、敦くんは。」  「俺はいつも助けられてない。」
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