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5分待つタイプか、長いな。
ぼんやりとスマホの画面を眺めながら、俺はさっきから同じ画面を眺めては溜め息を吐いていた。
父親と会ったことを母さんに教えるべきか。
いやでも、正確に言うと会ってないし。俺が一方的に気まずい思いをしているだけだし。
……十二年も経ってりゃ、そりゃわかんないよなあ。
記憶と写真の中より幾分か老けて、草臥れたような様子の父親は、それでもまだ一目見てわかる程度ではあった。
父親は、俺の姿を見ても特に何のリアクションも上げなかった。ということは、そういうことなんだろう。
俺が小学校に上がった頃からだったと思う。毎日とまではいかないが、それでも両親の喧嘩は絶えなかった。
きっといつか、ばらばらになってしまう。幼心に俺はそう思っていた。だから、小学校三年に上がったある夏の日、学校から帰った俺に「お父さん、もう帰ってこないから」と母さんに言われた時、さして驚かなかった。
「……うーん」
やっぱりやめておこう。俺はアプリを閉じた。
時計を見ると、時間はすっかり五分以上経っていた。
「なんで今更、こんなことしてんの」
深夜の人気なんて全くない公園のベンチ。
チカチカと点滅する電灯の下で、俺は自分でも驚くくらい冷たい声を出していた。
「……なんでだろうなあ」
またそう言ってへらりと力なく笑う顔に、苛立ちは募るばかりだった。
休憩から戻ると、既に父親の姿はそこにはなかった。
知らず入っていたらしい力が肩から抜けて、それからほんの少しだけ残念なような、そんなよくわからない気持ちが掠めたような気がした。
「三橋、これお前にって」
棚橋さんは不思議そうな顔でそう俺に箸袋を一つ渡してきた。
書かれていたのは、震えたような文字で書かれた、近くの公園の名前と待ってる、の一言。
本当は無視してしまおうとも思っていた。けど、気がついたら足は公園に向かっていた。
この人はこんなに小さかっただろうか。向けられた視線は蝋燭の火のように頼りなく揺れていた。
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