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「何、今更謝罪でもすんの?」
「いや、謝りたいのもそうなんだが、今日はそうではなくて」
「じゃあ何? 12年も経って今更俺の前にのこのこ現れてしたいことって、謝罪じゃなけりゃ何? まあ謝罪だったとしても今更アンタの話なんて聞く気もなけりゃ、ほんとなら顔だって見たくないし声だって聞きたくないんだけど」
言っていることは滅茶苦茶だ。自覚はあった。
そう思っているのは事実だ、けどじゃあ何故俺はここに来た? 来なければよかったのに、どうして今更この人の前に立って会話をしているんだろう。
ぐちゃぐちゃだ、思考も、言ってることも、感情も、全部全部。
「本当に今更だと思う、お前の言う通りだ。謝っても仕方がないことだとわかってる、どの面下げて、って思うのも無理もない、俺がそっちの立場でもきっとそう思うさ」
「じゃあ何」
「……今日、あの居酒屋に入ったのは、偶然ではないんだ」
「は?」
長くなるから、とベンチに腰掛けた父親の隣に、微妙な距離を開けたまま俺もとりあえず座り込んだ。
しん、と少し間が開いた後、父親は口を静かに開いた。
「家を出た後、地元にはいられないと思って、でも実家にも帰れなくて。この近くに越して、仕事に就いたんだ。今の社長さんに拾われるまではなんだかんだ辛かったけど、でも仕方がないことだと思っていたよ。俺はお前や母さんを捨てたんだから」
「……」
「小さいながらもいい会社でな、こんなことを思ってしまうのはよくないかもしれないが、幸せだったんだ。せめて真面目に、堅実に生きようと、本当に思った。お前を見掛けたのは1年くらい前だったよ」
「は、そんなに?」
「ああ、あの居酒屋の近くにあるコンビニあるだろう。あそこに行った時に偶然。目を疑ったよ、何でここに、って」
悲しそうに寂しそうに、そう言って笑った。
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