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「本当はそう思っちゃいけないのかもしれない、けど確かに思ってしまったんだ。会えてよかった、元気そうでよかった。……本当に、大きくなった、って」
思わず視線を逸らしてしまった。そう言った顔が本当に嬉しそうで、絆されてしまいそうになったから。
駄目だ、そんな簡単に許してたまるものか。
俺を、母さんを置いて出て行ったこの男のことを。
「声をかけることなんてできなかった。資格がないと思っていたし、何を今更とも思った。それに何より、怖くて」
「……こ、わい」
「ああ、だって。顔を合わせてしまったら、話してしまったら……一緒に暮さないか、って言ってしまいそうで」
声が出ない。何かを喋ろうと口を開いても、情けなく空気を震わせたような声しか出せない。
何て言うのが正解なんだ、わかんない。
わかんねえよ……。
「もう一度一緒に暮らせたら、どんなに幸せだろうと。幼少期や思春期を一緒に過ごせなかったのがこんなにも悔しいだなんて、思ってもみなかったんだ。だから、やり直させてくれと頭を下げそうになってしまうから、だから、怖かった」
言葉が止まる。思わず視線を戻す。
勢いよく、こちらに向かって頭を下げる……親父が、いた。
「謝罪ではないと言った、けど。謝らせてくれ。本当にすまなかった」
「……だから、今更」
「そう今更なんだ。けど、やっぱり。謝りたいんだよ、我儘でごめんな、恒」
もう駄目だった、きっと最初から答えなんて出ていたんだ。
「許す、もうとっくに許してたんだよ。ごめん、素直じゃなくてごめん。俺も、母さんだってきっと、許すと思う。ううん、許すよ」
「……恒」
「いや許すとか許さないとか、そんなんじゃないよな。そりゃあ最初は悲しかったし、怒ってたって言うよりは……やっぱりな、って感じだったけど。でも怒ってるとか許さないとか、そう思いたかった、許したくなんかなかった、けど……やっぱり、家族なんだよ。どっかで、許しちゃう、もんなんだよな、って」
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