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ある日。
彼はいつものようにコタツでねむっていたうたた寝をしていた。
「あの……。もし……」
ふと聞こえる涼やかな声に、驚いて彼は目覚めた。
「この吹き抜ける春風の様な涼やかな声は一体……」
身を起こし、部屋を見回すも、そこはいつもの四畳半。
女子の気配はおろか、メスゴキブリの気配すらない。
「もし……」
だが、声は確かに聞こえる。
「誰だ?」
部屋の中に向かって呼びかける通。
「私です……」
声はすぐ近くから聞こえた。
「どこだ?」
声の聞こえたあたり。即ち、コタツの周りを見回す通。
「私はあなたの目の前です、いえ、今下半身を入れて頂いております」
「何だと? そんなまさか」
「はい、あなた様にご愛用頂いておりますコタツのツタコと申します」
「これは夢か?」
「いいえ、夢ではありません」
「俺はいよいよおかしくなったのか」
「いいえ、おかしくなどなっていません。今、こうして話しかけているのは、あなた様のコタツです」
「何という事だ。ついに、ついに俺は夢がかなったというのか」
通は感動に身を震わせた。
「あなた様の愛が、私を目覚めさせてくれたのです」
「おお、コタツよ……」
「コタツなんて、そんな他人行儀な呼び方は嫌です。ツタコ、とお呼びください」
「つ……ツタコ……」
通の顔は真っ赤になっていた。
「はい、通さん」
コタツの温度もちょっと上がった。
ただでさえカサカサの肌は、さらにカサカサになったが、通は幸せのあまり気にも留めなかった。
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