コタツノツタコ

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 その日から通の生活は一変した。  自堕落だった彼は、その全てを改めた。  何しろ、愛するツタコが常に近くにいるのだ。男として、だらしのない姿は見せられなかった。  普段はパン一で過ごしていた彼は、スウェットに身を包むようになった。  スウェットの生地がカサカサの肌に痛かったので、保湿クリームを塗るようになった。保湿クリームは彼の肌から水分が失われるのを防ぎ、その結果彼の下半身はみるみる蘇った。  そして、肌が白くなるほどに叩いた天花粉のおかげで、汗疹も瞬く間に引いて行った。 「最近、足の調子が良い様ですわね」 「分かるかい?」 「ええ、今までさんざん温めてきた足ですもの。スウェット越しでも艶々なのがよく分かりますわ」 「これも、お前のおかげだよ」 「まあ、お上手。それに、お顔も随分綺麗になって」 「そうかい?」 「ええ、いい男に磨きがかかりましたわ。私の自慢の通さんですわね」 「そう言われると、俺はますます頑張ってしまうな」 「うふふ、期待していますわ」  通はツタコの期待に応えるため、今まで以上に頑張った。  頑張り過ぎてひと財産こしらえたが、彼にとってそんなものはどうだって良かった。  全てはツタコのためだった。  タツコが応援してくれるから、彼は頑張ったのだ。  彼とツタコは時々こんな話をした。 「将来はどこか静かなところへ引っ越そう。そうして、二人きりで暮らすんだ」 「まあ、素敵ですわね」 「ツタコはどこか行きたいところはあるかい?」 「そうですわね。寒いところが良いわ。通さんをたっぷり暖められるもの。例えば高い山の上とか」 「いいね、きっとそうしよう」  だが、ツタコは昭和生まれの赤ヒーターである。保証期間はとっくに過ぎ去り、命の火もやがては尽きる。耐久消費財の悲しき運命は、ツタコにも分け隔てなく訪れるのだ。
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