2人が本棚に入れています
本棚に追加
その日から通の生活は一変した。
自堕落だった彼は、その全てを改めた。
何しろ、愛するツタコが常に近くにいるのだ。男として、だらしのない姿は見せられなかった。
普段はパン一で過ごしていた彼は、スウェットに身を包むようになった。
スウェットの生地がカサカサの肌に痛かったので、保湿クリームを塗るようになった。保湿クリームは彼の肌から水分が失われるのを防ぎ、その結果彼の下半身はみるみる蘇った。
そして、肌が白くなるほどに叩いた天花粉のおかげで、汗疹も瞬く間に引いて行った。
「最近、足の調子が良い様ですわね」
「分かるかい?」
「ええ、今までさんざん温めてきた足ですもの。スウェット越しでも艶々なのがよく分かりますわ」
「これも、お前のおかげだよ」
「まあ、お上手。それに、お顔も随分綺麗になって」
「そうかい?」
「ええ、いい男に磨きがかかりましたわ。私の自慢の通さんですわね」
「そう言われると、俺はますます頑張ってしまうな」
「うふふ、期待していますわ」
通はツタコの期待に応えるため、今まで以上に頑張った。
頑張り過ぎてひと財産こしらえたが、彼にとってそんなものはどうだって良かった。
全てはツタコのためだった。
タツコが応援してくれるから、彼は頑張ったのだ。
彼とツタコは時々こんな話をした。
「将来はどこか静かなところへ引っ越そう。そうして、二人きりで暮らすんだ」
「まあ、素敵ですわね」
「ツタコはどこか行きたいところはあるかい?」
「そうですわね。寒いところが良いわ。通さんをたっぷり暖められるもの。例えば高い山の上とか」
「いいね、きっとそうしよう」
だが、ツタコは昭和生まれの赤ヒーターである。保証期間はとっくに過ぎ去り、命の火もやがては尽きる。耐久消費財の悲しき運命は、ツタコにも分け隔てなく訪れるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!