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 不安が増す希の前で、男は薬缶に火をかけた。それから慣れたようすで手早く朝食を作ってしまう。 「食えるなら何か腹に入れたほうがいいぞ」  男は、私物らしい長袖のTシャツとスウェット素材のパンツを希に放った。 「・・・・・・あの、俺の服は?」 「あんたの服はゲロまみれで洗濯した。覚えてないか? あんた、夕べいきなり店に現れたと思ったら、ゲイ差別的なことを叫んで襲われそうになったのを。正直自業自得だし、そのまま放っておいてもよかったんだが、さすがに寝覚めが悪くて仲裁に入ったら、俺にゲロをかけやがった」  希は内心で、げえっと悲鳴を上げた。 「すっ、すみません!」  希が真っ青になって謝ると、男はどこか面白がるような表情を浮かべた。そそくさと貸してくれた服を身につける希を、男は何を考えているのかわからない瞳でじっと見ていた。食べなよ、と朝食を指し示される。希が手を伸ばさなくても、男はそれ以上すすめず、テレビを点けると、自分で作った朝食を食べ始めた。 「あんた、店でもずっと叫んでた。明~、なんでなんら~って。明って何、あんたの弟? 弟がゲイなことにショックを受けてやけ酒でもした?」  何も答えられないのが、すでに答えだった。男はどこかその答えを予想していたのか、ふうん、と呟いた。その瞳の奥に冷めたような光が浮かんでいる。そのとき、テレビから微かな笑い声が聞こえてきた。希はいったん視線を画面に移してから、正面の男に戻した。朝食を食べる男からは、どこかピリピリとした空気が出ている。希はどうしていいかわからなかった。
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