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「弟はこれまで反抗期らしい反抗期もなくてさ、すごくいい子だったんだ」
「それが男を相手にするとは思わなかったって? つまりは自慢の弟に汚点がついたわけだ」
皮肉っぽい男の言葉に、希は眉を顰めた。わざと希を傷つけようとする言葉を口にする男のほうが、なぜだか傷ついている気がしたからだ。
「・・・・・・あんたはそうだったの?」
誰かに言われた? そのとき、傷ついた・・・・・・?
思わず口にしてしまって、希はハッとした。
「・・・・・・なんだと?」
男の目が尖る。
「ごめんなさい!」
希は、自分が男の痛いところを突いてしまったことに気がついた。いまのは自分が不用意に触れていいことではなかった。
「俺には関係がないことだった。無神経なことを言って、本当にごめんなさい!」
素直に頭を下げた希に、男は視線をそらした。腹立たしげに席を立とうとする。
「あのさ、汚点だなんて思わないよ!」
どうしてだかこれだけは伝えなければと、焦燥にも似た気持ちが胸につのる。
希の脳裏に幼いころの明が浮かぶ。無邪気に笑っている顔。それからここ数週間、拗ねたように自分を無視するふくれっ面の顔。どちらも希の大事な弟だ。
「明が・・・・・・、弟が本気で好きな相手なら反対はしない。だって、家族だから。俺が味方にならずに、誰が弟の味方になってやるんだよ」
あんたは本当にいなかった? 味方になってくれるような人が。
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