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「あんたが襲われようがどうでもいいが、興味半分に俺たちの世界に立ち入られるのはいい気持ちはしない。次は覚悟してくるんだな」
男は食べかけの皿を放り出すと、席を立った。それから手にビニール袋らしきものを下げ、戻ってくる。袋の中身は、おそらく男が洗ってくれたという希の服だ。
「いま着ているやつは返さなくていいから、てきとうに処分してくれ。シャワーを浴びている間にいなくなってくれよな」
男の顔には、これ以上の面倒はごめんだ、とはっきり書いてあった。
「・・・・・・本当にすみませんでした」
男は何も答えず、どこかへと消えた。すぐに水の流れる音が聞こえてくる。希は袋に入った自分の服を持つと、頭を下げ、男の部屋を出た。平穏な朝の風景を眺めながら、ここはどこだろうと周囲のようすを窺う。それから近くに地下鉄の駅を見つけ、ほっとした。ホームに滑り込んできた電車に乗り込んだ瞬間、忘れていたはずの昨夜の記憶の断片と、男としたキスが強烈に甦り、希は唇を押さえてその場にしゃがみたくなった。
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