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「柏木さん、疲れてます?」  事務の武居さんという女の子に希がそう訊かれたのは、同期の金井と社員食堂で昼食を食べていたときのことだ。 「え? いや、そんなことないけど」  希が否定すると、お弁当を持った武居さんは、「う~ん、そうかなあ」と首をかしげた。 「なんか最近ずっと元気がないような・・・・・・」  と言われて、希はドキッとした。 「ねえ、金井さんもそう思いません?」 「んー、言われてみれば・・・・・・?」  テーブル越しに金井の手がにゅっと伸びてきて、頬のあたりを撫でられる。やめろよ、と希が金井の手を払えば、なぜか武居さんは「きゃっ」と歓声を上げた。 「ほんとにお二人仲がいいですよね~。飲み会の後、酔った柏木さんを介抱するのもいつも金井さんの役割だし」  満足したように、仲のいい女子社員たちのほうへといく武居さんの後ろ姿を見て、希は「なんだ?」と首をかしげた。金井が思わせぶりに「さあな」と答える。  柏木さん、と武居さんに呼ばれたのは、退勤時のことだ。ちょっとこっちへと、人気のないほうへと連れていかれる。 「昼間は冗談ですませましたが、本当に顔色悪いですよ。最近よく眠れていないんじゃないですか?」  とっさに答えに詰まったのは、希に思い当たることがあったからだ。実はあれから明とは冷戦状態だった。希が話しかけようとしても、短い返答が返ってくればいいほうで、ずっと避けられていた。さすがに普段あまり家にいることが少ない母にも、「あんたたちがケンカするなんて珍しいわねえ」と面白がられる始末だ。
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