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「それではまずはうつ伏せになって、こちらに頭をのせてください」 「は、はいっ」  施術台の片側には、ちょうど頭ひとつ分くらいのドーナツ型の穴が空いていて、そこに顔をのせると苦しくないよう息ができるのだ。ひどく肌触りのよいバスタオルでふわりと身体を覆われて、緊張していた身体がふっとゆるむ。 「最初にご予約されていたのは武居さまだとか。ひどくお疲れがたまっているようだから、癒してあげてほしいと。・・・・・・いい彼女をお持ちで幸せですね」  わずかに皮肉を含んだ奎吾の言葉に、希は慌てた。 「・・・・・・ちがっ! 彼女なんかじゃ・・・・・・」  ない、という言葉は、奎吾の指が希の腕に触れた瞬間に呑み込まれた。そのときの感覚をなんて言えばいいのだろう。まるで天国にいるような気分だった。もちろん、希は本物の天国などは知らない。けれど大袈裟ではなく、それほど心地よかったのだ。  エッセンシャルオイルに濡れた指が、希の上半身の片側を滑ってゆく。まずは右側から。そして、それが終わると今度は反対側を。マッサージをされていない部分は肌触りのよい布に覆われていて、そのまま眠りたくなってしまう。  痛いところはございませんか? と訊かれ、希は頭を振った。  なんだこれは・・・・・・。  希はうっとりとした。奎吾の指が触れた部分から、身体がぐにゃんと蒟蒻になったみたいに芯が溶けていく。身体がふわふわと浮いていく。世の中の女の人たちは、こんなに気持ちのよいものを普段から知っているのか。そりゃあ高い金を払ってでも受けたいはずだと、希は目の覚めるような思いがした。それほどに男の施すマッサージは気持ちがよかった。眠ったらもったいないと思うのに、気がつけば希は熟睡していた。
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