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「・・・・・・さま。柏木さま」  次に奎吾に声をかけられたとき、希は自分が涎を垂らして眠っていたことに気がついた。真っ赤になって口元をこすり、身体を起こす。これまで感じたことのないような爽快な目覚めだった。身体のすべてが一度お直しに出されて真新しくなったように軽い。  ・・・・・・終わってしまった。  すべてが終了してしまったことを残念に思っている希の横で、奎吾はすでに後片付けをすませている。 「念のため蒸しタオルで軽く油を落としておりますが、もし気になるようでしたらもう一度シャワーを浴びていただいても構いません。血流がよくなっていますので、少量のアルコールでしたら飲んでも構いませんが、普段よりもまわりやすくなっておりますのでご注意くださいね。最初の部屋でハーブティーをお出しいたしますので、どうぞゆっくりと休まれていってください。本日はありがとうございました」 「ま、待って・・・・・・っ!」  そのまま部屋を出ていこうとした奎吾を、希は呼び止めた。奎吾がかすかに眉を顰める。 「何か?」  いまだ接客用の態度を崩さない男に、希は頭を下げた。 「この間はごめんなさい! 俺、弟だけじゃなくて、あんたたちにも本当にひどい態度をとりました。酔っていたからなんて言い訳にならない。なのに、あんたは俺を助けてくれた。放っておくことだってできたのに・・・・・・。助けてくれて、本当にありがとう」  奎吾は大きく目を瞠ったように、希を見ている。それから何かを言い掛け、ためらうように口を噤んだ。失礼します、と言って部屋から出ていく男の後ろ姿を、希は見送った。小さくため息をつく。  奎吾の言うように、オイルを使ってマッサージをしたのに、身体はちっともべたついていなかった。それどころか肌の内側に水分を溜め込んだように、しっとりともちもちしている。  帰ったら明ともう一度話をしてみようと心に決め、希は身支度を整えサロンを出た。
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