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「こりゃこりゃ。逃げるにゃ」
空き缶を拾い、希はどこかの店の裏に置かれたゴミ箱にもたれた。そのままうとうとしかけた、そのときだった。
「アン・・・・・・ッ。やっ、待って・・・・・・!」
その場にそぐわない艶めかしい声が聞こえてきて、希は重たい目蓋を開いた。最初は何を目にしているのかわからなかった。やがて自分が他人のラブシーンを覗き見していることに気がつき、希は動揺した。
「あっ! そこ・・・・・・ッ!」
希は瞬きした。大柄な男に身体をまさぐられている小柄な青年のほうが、明に見えたのだ。もちろん高校生の弟がこんな場所にいるはずはない。
「明・・・・・・?」
動いた拍子にゴミ箱にぶつかり、思いがけず大きな音が出た。
「誰?」
希は再び弟の名前を呼ぼうとして、ひっくとしゃっくりをした。男たちが希に気がつく。
「酔っぱらい。何? 俺たちに何か用?」
小柄な男が希のほうへ近づこうとするのを、もうひとりの男が止めた。
「アツシ、いいから放っておけ」
男の発した低く艶のある声に、希はぶるりと身体を震わせた。
なんだ?
希は自分が何に反応したのかわからなかった。首をかしげ、男たちを眺める。
「でも奎吾さん・・・・・・」
「いいから」
二人は希をその場に残すと、近くの店に入っていってしまった。
「ま、待ってくりぇ・・・・・・」
希はよろよろと起き上がった。彼らの後を追い、見知らぬ店に足を踏み入れる。店に入った瞬間、何人かの客が咎めるような視線を向けてきたが、酔っている希はそんなことには気づかなかった。
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