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「なんでなんら?」
「・・・・・・え?」
「なんれ男同士なんら?」
店員が眉を顰める。
「お客さま?」
「明~、なんでなんら? にいちゃんはお前の気持ちがわかりゃにゃい。どうして男同士なんら? 話してくれなきゃ何もわからないらろ~」
希の言葉に店内がざわつく。一瞬にして空気が殺気だった。
そのときの希に悪意はこれっぽっちもなかった。ここがどういう場所で、自分の言葉が彼らにどんな意味を持つという意識もなかった。ただ、希は知らなかっただけだ。世の中には男女が出会って恋をするように、当たり前のようにそれ以外の関係が存在するということを。それまで希の周りにはなかったから。希に彼らを否定する気持ちは微塵もなかった。普段よりも過ぎた酒量が希の判断を鈍らせ、明に拒絶されたショックだけが希の頭を占める。
「こいつ! さっきから黙って聞いてりゃ好き勝手なこと言いやがって・・・・・・っ!」
「わからないなら俺たちが教えてやろうか!」
剥き出しの敵意に、希はびくっとなった。
どうしてだろう、みんな何をそんなに怒っているのだろう?
口を開こうとした希に、店員は素早く黙って、と囁いた。
「それ以上怒らせたら、止められるかわかりません。痛い目に遭いたくなかったら、これ以上刺激するようなことは言わないで」
希は戸惑った目を店員に向けた。
痛い目? 刺激するようなことって・・・・・・?
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